| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-152  (Poster presentation)

熱帯の低リン土壌環境に生息する樹木の地下部リン獲得戦略の樹種間比較【A】
Interspecific variation in tree strategies for phosphorus acquisition in a P deficient  tropical forest【A】

*山本翔太(山梨大学), 北山兼弘(京都大学), 向井真那(山梨大学)
*SHOTA YAMAMOTO(University of Yamanashi), KANEHIRO KITAYAMA(Kyoto University), MANA MUKAI(University of Yamanashi)

森林生態系においてリンは植物にとって必須元素である。熱帯では土壌風化が著しく進行し、他の陸域生態系と比較すると土壌リン濃度が低いが、地上部現存量は高く維持されている。熱帯における植物のリン獲得能(細根ホスファターゼ活性や細根滲出物分泌速度)は林分レベルで土壌可給態リン濃度に応じて変化することが先行研究で示されてきたが、同所的に生息する樹木の地下部リン資源の分配様式については明らかでない。本研究では熱帯の低リン環境の森林において、樹木のリン獲得戦略の種間差と細根形質との関係、それらと細根リン吸収速度との関係について明らかにすることを目的とした。
調査はマレーシアサバ州キナバル山の土壌リン可給性が著しく低い森林(表層土壌全リン濃度69.22 µg g-1)で行った。調査地で優占する常緑針葉樹2種と常緑広葉樹4種を調査対象種とした。これら6樹種の林冠に達している個体を4個体ずつ選定し、個体ごとの細根ホスファターゼ活性、細根有機酸・全炭素滲出速度、比根長(SRL)、比表面積(SRSA)、細根リン吸収速度を測定した。
細根ホスファターゼ活性および細根有機酸分泌速度には種間差が見られ、特にホスファターゼ活性は針葉樹で広葉樹より有意に高かった。また、細根ホスファターゼ活性は広葉樹でSRLおよびSRSAと有意な正の相関が見られた。細根リン吸収速度に樹種間差は見られなかったが、AICによるモデル選択の結果、細根リン吸収速度の正の説明変数として針葉樹では全炭素滲出速度が、広葉樹では細根ホスファターゼ活性と全炭素滲出速度が選ばれた。熱帯の低リン環境に同所的に生育する樹木では針葉樹・広葉樹間で土壌リン獲得形式が異なっており、針葉樹では特異的にホスファターゼを高く維持することで有機態リンを積極的に獲得するが、広葉樹では細根形質により変化する細根ホスファターゼ活性と、細根からの全炭素分泌速度の両方がリン吸収速度と関係がある可能性が示唆された。


日本生態学会