| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-153 (Poster presentation)
ササが長期の栄養成長の後に、広域で多個体が同調開花し、実生が更新することはよく知られているが、この開花周期からずれた小面積開花後の更新過程に関する知見は限定的である。小面積開花の際には結実率が低い場合が多く、実生更新した事例も知られていない。
2011年に秋田市の落葉広葉樹二次林内でクマイザサ単一個体が約2300 m²開花した。ここでは714粒/m2の種子生産が確認され、翌年に3.4±4.7 /m2で実生が発生したことから、単一個体の小面積開花であっても実生更新が成功する可能性が見いだされた。本研究では、小面積開花後の植生の回復状況と11年間の実生個体群動態を明らかにした。
2023年に、ササが開花した50×50 m調査区内で、2 m以下の植物被度をササ実生・ササ非開花(周辺部から侵入)・木本類・草本類に分けて調査した。また2012~2022年にかけて、実生継続調査区(合計270 m2)で実生個体ごとの稈数・最大自然高など、成長を追跡した。個体を識別し、遺伝的多様性を調べるため、実生の葉を採取しDNA分析を行った。
調査区全体の植被率は約70%で、ササ実生の被度は0.7%のみだった(稈密度:0.6±1.7 /m2)。非開花のササが45%を占めており、周囲からの侵入が著しいことが確認された。
実生は発生後2年間で85%の個体が枯死し、2022年の個体密度は0.2±0.5 /m2で、初期密度の5.2%であった。発生から2年後の実生の生存には、前年の個体重が正の影響を与えており、ヘテロ接合度は影響していなかった。2022年の個体の最大自然高平均は25 cmであり、個体あたりの平均稈数も2.7本に過ぎなかった。既に報告されている一斉開花後の実生個体群動態に比べ、小面積開花後の実生の成長は遅く、実生更新は進んでいなかった。さらに、実生個体のヘテロ接合度が成長に影響を与えているかどうかついても検討した。
今後、非開花のササによって実生が被陰される可能性が高いと考えられるが、残存実生の生残、成長を長期的に観察することが必要である。