| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-155 (Poster presentation)
植物は同一種内であっても、遺伝的変異と表現型可塑性によって生育環境に適応した形態的変異が生じることがあり、植物の環境適応についての研究は気候変動に対する植物への影響を予測して保全する上で重要である。また、標高勾配に沿って植物が局所適応し生理生態学的に分化していることはよく知られており、標高に沿った形質の変化を調べることは対象とした形質の適応的な意義を明らかにする上で重要である。ガマズミ科ガマズミ属の落葉小高木であるオオカメノキは、標高50~2600 mという広い標高範囲に生育している。そこで本研究では、異なる標高域に生育するオオカメノキの形態的および遺伝的変異を明らかにし、標高勾配に伴う環境変化に対してオオカメノキがどのように対応しているかを考察することを目的とした。
2023年6、7月に立山の常願寺川-称名川流域の標高が異なる5つのサイト(580~2030 m)において、1サイトにつき16個体ずつ計80個体を選定し、サイズ測定および葉の採取を行った。採取した葉を用いて形態形質(葉面積LA、比葉面積SLA、葉乾物含有量LDMC、炭素・窒素含有量、葉毛割合)を測定し、またDNAを抽出し、MIG-seq法によりSNPを検出して遺伝子型を決定し、データ解析を行った。全ての形態形質においてサイト間で差異が見られ、特に炭素・窒素含有量は標高が高くなると増加し、LAと葉毛割合は減少する傾向が認められた。また、SLAと窒素含有量には正の相関が、SLAとLDMCには負の相関が見られた。この結果はサイト間での気温や着葉期間、食害の差異に対するオオカメノキの反応の違いを示しているのかもしれない。一方、サイト間に遺伝的多様性の差異はほとんどなく、遺伝的分化も非常に低かった。したがって、本研究で確認されたサイト間の形態的変異は、遺伝的分化によるものではなく、表現型可塑性による可能性が高いと考えられる。