| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-156 (Poster presentation)
樹木の繁殖開始のタイミングは、個体の適応度や個体群動態に重要な生活史戦略であり、植生遷移など森林群集のダイナミクスを決定づける要素の一つと考えられる。繁殖と成長への資源投資はトレードオフの関係にあると考えられ、早期に繁殖開始する種はしばしば成木が小さい一方、林冠層を形成する高木種は繁殖開始が遅い傾向が知られている。遷移に伴い、短命な先駆種、長命な先駆種、稚樹が耐陰性をもつ高木種(部分的陰樹)、耐陰性のある低木種の4つのグループが相対的な優占度を変えることが知られる(Poorter et al. 2006)。本研究では、二次遷移系列に沿って、出現樹種のサイズと光環境、花または果実の有無を調べることにより、4つのグループ間において、繁殖開始時の光要求性やサイズにどのような違いがあるのかを調べた。日本国内の3地点(苫小牧、和歌山、屋久島)のそれそれで、二次遷移系列に沿った複数の20m四方プロット合計26 個において、胸高直径2 cm以上の全ての個体の樹高と繁殖状況(花や実の有無)、及び個木頂点での光強度を評価した。一般化線形混合モデルを用いてロジスティック回帰を行い、種ごとに樹高と個木の光環境が繁殖状態にどのように関連しているかを調べた。
繁殖確率は、樹高の増加と個木の受光量に依存して増加し、その感受性は種によって大きく異なった。短命な先駆種と長命な先駆種は、どちらも樹高に対して多くの光を受けていたが、短命な先駆種が小さい樹高から繁殖を開始していたのに対し、長命な先駆種は繁殖開始の樹高が比較的大きかった。耐陰性の低木種は生活史の多くを暗い環境で過ごし、繁殖開始には、光よりも樹高閾値が特に影響していた。部分的陰種も暗い環境で育つが、ギャップや林冠に到達し光を受けるようになると繁殖を開始することが観察された。以上の結果から、各樹種の繁殖開始のサイズや光依存性は二次遷移に伴う群集組成の変化や樹木の共存機構に関係すると考えられる。