| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-161  (Poster presentation)

産業酵母の発酵パフォーマンスを変化させる表現型多様性の探索【A】
Phenotypic diversity altering the fermentation performance in Saccharomyces cerevisiae【A】

*冨山絵(千葉大・院・融), 村上正志(千葉大・院・理), 高橋佑磨(千葉大・院・理)
*Kai TOMIYAMA(Grad. Sci. Eng., Chiba Univ.), Masashi MURAKAMI(Grad. Sci., Chiba Univ.), Yuma TAKAHASHI(Grad. Sci., Chiba Univ.)

出芽酵母は、食品や酒類の生産に用いられる有用微生物である。人為選抜や品種改良により、これまでにさまざまな特性を有する系統が生み出されてきたものの、実際に製品を製造する際には、目的に沿ったパフォーマンスを発揮する系統を単独で用いるのがふつうである。一方、生物個体群は一般に多様性に満ちている。近年、個体群中の表現型の多様性が、個体群の増殖および代謝特性を非相加的に変化させること(多様性効果)がわかってきた。すなわち、複数の表現型が共存することで、新規の個体群特性が生じうるのだ。したがって、酵母において表現型多様性と個体群特性の関連性を理解できれば、食品産業や食品工学にイノベーションを起こせる可能性がある。そこで本研究では、4種類のエコタイプ(パン酵母とビール酵母、ワイン酵母、清酒酵母)を含む出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の複数株を用いた網羅的な共培養実験により、多様性効果の発生基盤となる多様性を探索した。各株の単独培養と、総当たりでの2株の共培養を48時間行ない、各経過時間における個体数を測定した。4つの個体群パラメータ(環境収容力と最大増殖速度、個体数が環境収容力の50%に達するまでの時間、最短倍加時間)を推定した。共培養の各組み合わせにおける多様性効果は「共培養時の各パラメータの実測値」と「混合した2株の単独培養時の各パラメータの平均値(予測値)」の差として算出した。その結果、多くの混合集団で各パラメータに対する多様性効果がみられ、その大きさや方向性は混合のしかたによって異なった。なお、混合集団では、単独集団と比べて各パラメータ値が10~20%程度向上(あるいは低下)する場合があった。さらに、各株について複数の形質値を測定し、混合した株間における形質値の差の絶対値を株間の表現型距離として、各表現型と多様性効果との関係を調べたところ、いくつかの表現型距離が多様性効果の発生に関連することがわかった。


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