| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-168 (Poster presentation)
東アジア地域は、古第三紀・新第三紀以前の北半球に分布を広げていた遺存植物のレフュージア(避難地域)が多数存在し、日本列島もその一部である。近年、顕著化している気候変動の影響による種の存続という観点から、東アジア大陸地域において、遺存植物に適した気候環境が特定されつつある。日本列島は湿潤変動帯に属し、気候に加えて地形も複雑であることから、遺存植物に適した立地環境を特定するためには、多様な気候環境と地形の複雑性を考慮した評価が必要である。本研究では、日本列島における木本性遺存植物(以下、遺存樹種)の分布特性について、全国植生調査データベースを用いて気候・地形学的観点から明らかにした。
その結果、遺存樹種の多くは、気候的には、暖かさの指数80前後の範囲に分布の中心があり、北海道を除く冷温帯下部から中間温帯および暖温帯上部にかけて、遺存樹種の出現種数が多く、遺存樹種以外を含めた全出現種に対する遺存樹種の出現割合が高かった。地形的条件を考慮すると、上記気候的条件に加え、特に山岳地域の湿潤な谷地形条件下(所謂、山地渓畔域)において、遺存樹種の分布の中心があることがわかった。一方で、亜寒帯、北海道冷温帯、暖温帯下部、亜熱帯の気候的条件においては、遺存樹種は分布するものの出現種数は少なく、全出現種に対する遺存樹種の出現割合は低かった。したがって、日本列島には、冷温帯下部から中間温帯および暖温帯上部、かつ山地渓畔域において、遺存樹種のレフュージアが多く存在する可能性が示された。
本研究結果は、日本の山地冷温帯における渓畔林生態系の独自性を示すとともに、日本列島の森林生態系の多様性、複雑性を理解する為の重要な知見の1つとなることが期待される。今後は、渓畔域が遺存樹種のレフュージアである可能性をさらに掘り下げ、地質時間スケールにおける樹種の分布変遷、気候変動の影響による将来予測などを行う必要がある。