| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-171 (Poster presentation)
カシワ(Quercus dentata)の純林は海岸線以外にはあまりないが、北海道旭川市郊外の近文山では広範囲に純林が見られ、内陸・山地型の珍しいカシワ林が広がっている。近文山には蛇紋岩地帯が貫入し、植生に影響を及ぼしていると予想されるが、土壌特性とカシワの群落構造の関係は未解明である。本研究ではこれを明らかにし、カシワ純林の立地条件を考察することを目的とした。近文山にて3つの調査区として、カシワの無い落葉広葉樹林(P1)、カシワ混生の落葉広葉樹林(P2)、カシワ純林(P3)を設置し、毎木、稚樹、土壌調査を実施した。なお、P2とP3が蛇紋岩地帯に位置していた。
カシワの成木はP2とP3にのみ見られたが、P2のカシワは他種と混生し、幹が太く真っ直ぐ成長しているのに対し、P3は矮性化または枯死したカシワの純林で、群落構造には差異が見られた。稚樹調査では、P3に比べてP1とP2では多くの種が更新していることがわかった。土層の厚さは、P2のA層がP1とP3よりも顕著に厚かった。土壌中の交換態NiはP1では未検出、P2とP3で下層>A層という傾向が見られ、交換態Ca/Mg比はP2とP3のB層以下で<1であったことから、P2とP3は蛇紋岩土壌の特性を持つが、A層ではその特性が弱いことがわかった。全炭素濃度(有機物量)がA層で高い傾向があったため、その他の分析項目と比較したところ、含水率、全窒素、可給態リン酸、交換態K、Ca、Mn、Naとの間には正の相関、交換態塩基中の交換態Niの割合との間には負の相関が見られ、土壌への有機物堆積が蛇紋岩の影響を緩和している可能性が高いことが示唆された。
以上のことから、P2とP3の植生の差異は、有機物堆積量の差によるものと考えられる。カシワは他の落葉広葉樹よりも蛇紋岩土壌に耐性があると考えられるが、今後さらに有機物堆積が進めば、現在純林が広がっている場所にも他種が侵入できるようになり、長い年月を経てカシワ純林は衰退する可能性があると考えられた。