| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-172 (Poster presentation)
動物被食散布では、散布者による果実の採食、移動、排泄によって種子が散布される。1つの糞の中には、複数の種子が含まれており、種子の組み合わせ(以下、種子組成)は、実生の競争環境を反映していると考えられている。しかし、糞内の種子組成がどのような要因によって決定されるのかは明らかにされていない。糞内の種子組成は、散布者の食性や採餌様式の影響を受け、散布者種間で異なる可能性がある。そこで本研究では、樹上採食性のテンと地上採食性のタヌキ、キツネの糞内の種子組成を比較した。2022年の10月と11月に、栃木県日光市の戦場ヶ原に9.8㎞の調査ルートを設置し、糞を採集した。糞に含まれる種子を同定し、糞内の種子組成と実生の競争の強さの指標である糞1つあたりの種子密度を評価した。調査を通じて、テン58個、タヌキ25個、キツネ17個の糞を採集した。それらの糞から合計10126個、6科9属9種の種子を同定した。糞内の種子組成は、テンとタヌキ、テンとキツネの間で有意に異なった。テンは、比較的ズミの種子を中心とした糞内の種子組成を形成していた。糞1つあたりの種子密度もタヌキやキツネに比べてテンで高く、種子が高頻度で強い種内競争に晒されることが示唆された。2種以上の種子を含む糞の出現頻度はタヌキで最も高く(77.7%)、次いで、キツネ(41.7%)、テン(27.9%)だった。このことから、タヌキに散布された種子は種間競争に晒される可能性が高いことが示唆された。以上の結果から、樹上採食性の散布者は嗜好性の高い果実を選択的に採食できる一方で、地上採食性の散布者は樹上から落下した果実を日和見的に採食することが要因だと考えられた。