| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-175 (Poster presentation)
自然攪乱の抑制や人為管理の減少などにより、世界的に草原が近年急速に減少している。絶滅危惧の動植物の3~4割は草原性で、草原とともに社会が何を失ってしまうのか未知である。
生態系サービスが高い可能性がある歴史の古い草原は根系が大きい植物種が多い。本研究では、斜面防災の機能に着目し、歴史の古い草原では森林や新しい草原と比較して根系量が多いのかを検証した。
長野県・菅平高原のスキー場周辺で、300年以上継続している古草原、林齢40~90年の森林、50~70年が経過した新草原の3植生、各8地点を調査地とした。7月~11月に、各地点で20mのトランセクトを設け、直径5~8㎝・深さ最大30㎝の土壌コア試料を約5m間隔で5~6本採取した。採取した試料を深さ5㎝ごとに切り出して根系の乾重量を計測した。
土壌深ごとの平均根重量を比較すると、古草原は他の植生と比べて根量が多く、新草原と森林は同程度だった。深度ごとでは、土壌深15 cmまでは根量は古草原>新草原>森林という傾向があり、土壌深15~30cmでは古草原と森林は同水準で、新草原が少なかった。
これらの結果から、古草原では根系が発達し、森林化や再草原化からの継続期間が短いと根量が少ないと考えられる。森林では幹と幹の中間付近が斜面崩壊の弱点になると考えられ、そうした場所の根量が斜面防災の指標となる。そのため古草原の斜面防災機能は他の植生より高い可能性がある。
古草原の根量 が新草原よりも多くなるのは、草原を構成する植物種の組成が遷移の進行で、地下部である根系への投資の大きいK淘汰種が増えるためだと考えられる。
現在、草原への植林を進める運動が世界的に拡がっている 。今回の成果から、歴史の古い草原を森林化させることは生物多様性のみならず生態系サービスを低下させる可能性があることを問題提起したい。