| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-176 (Poster presentation)
高山や寒冷域の積雪環境では、表面が緑や赤などパッチ状に染まった雪をみることができる。これらは彩雪現象と呼ばれ、雪氷藻類という寒冷適応した藻類が融雪期に積雪中で繁殖し、ブルームを形成することで起こる。標高など環境の違いに応じて藻類の群集構造が異なり、彩雪の色に違いが生じることが知られている。一方、八甲田山など樹林帯では、標高が同程度の場所に緑や赤の異なる色のパッチが出現する。しかし、これらの色の違いが藻類の群集組成の違いによるのか、あるいは藻類の状態の違いによるのか、定かではない。そこで本研究では、異なる色の彩雪を対象とし、パッチ間で藻類の群集組成と細胞の状態を比較するとともに、栄養塩濃度などパッチごとの環境要因を測定して関連性を検討した。
調査は2023年5月に、青森県八甲田山の複数地点の林床において行った。積雪の表層3 cmを採取し、藻類の群集組成、活性評価、および環境要因を解析した。藻類の群集組成は、顕微鏡観察により形態(形状、大きさ、色、遊泳性/不動性など)に基づいてタイプ分けし、計数した。藻類の活性の指標として、光合成の最大量子収率(Fv/Fm)を測定した。環境要因は、現地で開空率を測定するとともに、採取した積雪においてpH、溶存化学成分濃度を測定した。
顕微鏡観察の結果、緑雪/赤雪ともに緑藻Chloromonas属が優占していた。緑雪と赤雪とでは優占する藻類の生活史段階が有意に異なり、緑雪では緑色の遊泳細胞、赤雪では赤系の色素をもつ不動性の休眠胞子が優占していた。また、同じ色の彩雪であっても優占種が異なる場合もあった。赤雪の光合成活性は緑雪のものよりも有意に低く、環境は栄養塩が少なく開空率が大きい傾向にあった。群集構造を規定する要因は明らかにならなかったが、同程度の標高で緑雪と赤雪が出現したのは、日射が強く低栄養塩のパッチにおいて藻類が休眠ステージに移行したためではないかと考えられる。