| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-177 (Poster presentation)
新しい環境へと侵入した後で適応する植物は、その環境に耐性を持つ必要がある。蛇紋岩土壌は重金属過多や養分不足のため土壌発達が遅いという特徴がある。生育に不適で植物に不利な選択圧がかかる蛇紋岩土壌は、その反面、競争種が少ないため蛇紋岩耐性を持つ植物が安定して生育できる環境でもある。サワシロギクAster rugulosus Maxim. では、全国の湿地に生育する湿地型集団と東海地方の蛇紋岩地帯に生育する蛇紋岩型集団の生態型分化が見られる。MIG-seq法によるSNP解析の結果、蛇紋岩型集団間でも4つのグループに分かれ、グループごとに蛇紋岩耐性に違いがあることが先行研究により明らかになっている。
蛇紋岩耐性の違いは、集団間のNiへの許容量の違いによると考えられているが、さらに内生菌などの微生物との共生が発芽段階での蛇紋岩耐性に関与していることが示唆されている。そこで本研究では、キレート効果や感染率を検討して微生物がサワシロギクに与える影響を評価することで蛇紋岩適応のための微生物との相互作用を推定することを目的とした。
蛇紋岩型の各グループの種子表面に内生している糸状菌を単離培養しさらにCAS寒天培地上での培養によりNiのキレート効果を評価した。その結果、キレート効果が大きい糸状菌の多くは蛇紋岩耐性の最も強いグループに属する種子由来であった。この糸状菌を分子同定した所、一般的に植物の病害菌として知られる植物炭疽病菌であるColletotrichum属であることが判明した。またこの属の糸状菌は耐性が最も強いグループに特異的に存在した。
以上から、Colletotrichum属の糸状菌がキレート効果で土壌中のNiを無毒化することが蛇紋岩耐性の強化につながっているという可能性が示唆された。