| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-186 (Poster presentation)
多くの植物は、種子による有性生殖に加えて、葉・茎・根などの栄養器官から遺伝的に同一なクローン個体を作る栄養繁殖を行う。植物が栄養繁殖を行うメリットとして、栄養繁殖体は種子に比べて大きく、乾燥ストレスや光制限が強い環境下での死亡率を下げ、新規個体が定着しやすいことが挙げられる。しかし、クローン増殖だけでは集団中の遺伝的多様性が低下し、環境変化や病原菌に感染された場合、個体群の維持が困難になってしまう。そのため、栄養繁殖を行う植物の多くは、有性生殖能力を維持している。
シュロソウ科の常緑性多年生草本であるショウジョウバカマ(Heloniopsis orientalis)は日本に広く分布しており、本州・四国では森林帯を中心に高山帯まで分布しているのに対し、北海道では高層湿原と高山草原に断続的に分布し、森林帯には分布しない。また、本州の個体は葉の寿命が2~3年ほどあり、葉の先端に不定芽を形成して栄養繁殖を行うが、北海道の個体では葉の寿命が短く、不定芽の形成はほとんどみられない。この性質の違いに着目し、北海道の低地高層湿原と高山帯、本州(富山県)の低地林内と高山帯の個体群にプロットを設置し、個体の繁殖形質(花、果実、種子、不定芽)を比較した。
花生産数は個体サイズ(葉の総面積)が大きくなるほど増加する傾向がみられたが、サイズ依存性の程度に地域間の違いはみられなかった。しかし、北海道高山個体群は本州個体群に比べ個体サイズが小さく、花生産数は有意に少なかった。さらに高山個体群の個体あたりの種子生産数は本州のほうが有意に多かったが、充実種子の重量は北海道のほうが有意に大きく、種子発芽後の実生サイズも大きかった。このことから、不定芽をつけない北海道の個体群では、種子サイズ、実生サイズを向上させることで実生個体の生存率を高めている可能性がある。