| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-187 (Poster presentation)
植物の性表現を大きく2つに分けると、単一個体で花粉生産と種子生産を行う両性と、単一個体が花粉生産か種子生産のどちらかしか行わないという雌雄異株性がある。雌雄異株植物は、その性質ゆえに送粉様式や種子散布において両性植物に比べて不利であると考えられており、実際に雌雄異株植物は被子植物の種数の6%ほどしか存在しない。しかし、雌雄異株植物は被子植物の43%の科で見られ、独立に複数回進化したと考えられており、雌雄異株性には両性にくらべて何らかの利点が存在している可能性がある。
本研究では、同属内に雌雄異株16種と両性13種を含み、かつ送粉様式や種子散布様式が種間で共通している日本産カエデ属樹種全29種を対象とした。両性種と雌雄異株の種で生態特性を比較し、性表現間で差が見られるかを調べ、雌雄異株性の利点を考察した。また、現生種の形質の種間の類似性は、生態学的な条件への適応により生じただけでなく系統的な類似性によって生じたものもあるので、形質の種間比較には系統関係を考慮することが望ましい。本研究では日本産カエデ属樹種の系統関係を明らかにすることも試みた。
系統関係を考慮して、性表現間での生態特性の比較を行なった結果、雌雄異株の種は両性種に比べて、分布域の北限の緯度が低かった。一般的に雌雄異株植物の種の割合は高緯度地域ほど低くなることが知られているが、その傾向と一致した。また、雌雄異株の種は1花序あたりの花数が少なかったが、1果序あたりの果実数は両性種と差が見られなかった。さらに、果実1個の重量にも差が見られなかった。ただし、果序軸1gあたりが支えている果実の重量は雌雄異株の種で大きいことが見られた。雌雄異株の種では、1果序の総果実重量に対する果序軸への投資を節約できている可能性がある。これらの結果から、雌雄異株性が、花序構造・果序構造の効率化・分布域に関係していることが示唆された。