| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-192 (Poster presentation)
多種共存群集の一つである森林では、生育初期段階における強光での成長速度と弱光での生存率(耐陰性)のトレードオフが、多種共存に大きく貢献すると言われている。耐陰性のメカニズムとして病原菌への抵抗性が考えられるが、病原菌抵抗性を実験的に解析し、成長速度と病原菌抵抗性の間にトレードオフがあることを示した研究はない。本研究では、様々な樹種の稚樹の葉で、感染種特異性が低い菌核菌(Sclerotinia sclerotiorum)の感染実験を行い、成長速度と病原菌抵抗性の関係を調べた。また、葉経済スペクトルや表皮の物理防御と関連するLMA(葉重/葉面積)が、成長速度と病原菌抵抗性の関係を説明するかどうかも調べた。
宮城県内の常緑落葉混交林に生育する落葉広葉樹14種、常緑広葉樹5種、常緑針葉樹1種の稚樹を対象に葉をサンプリングし、実験室内の一定環境で葉ディスクの表面に菌核菌を育成させたゲルを接触させ、数日後の病変面積を定量した。感染耐性に対する表皮の寄与を分離して評価するために、葉ディスクの切断面にゲルを接触させる処理も行った。また、別の稚樹を堀り取って重量を測定し、当年枝重量と年輪幅からRGR(相対成長速度)を推定した。
全種間、および落葉種間では、RGRと感染率(葉面&切断面)の間に正の相関があり、成長速度と病原菌抵抗性の間にトレードオフがあることが示唆された。また、このことから、耐陰性に病原菌抵抗性が寄与していることも示唆される。常緑種間では、RGRと感染率の間に相関がなかったため、常緑種間における成長速度と耐陰性のトレードオフには、病原菌抵抗性は寄与しないかもしれない。また、常緑種は落葉種よりもLMAが高く、葉面からの感染率とRGRが低かった。このことから、常緑種は落葉種に比べ、成長への投資を犠牲にして表皮の物理防御に投資し、生存率を高めていることが示唆された。