| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-195 (Poster presentation)
葉の形質は植物の光合成能力や環境適応能力と密接に関連しているため、様々な形質について多くの研究が行われている。中でも比葉面積(SLA)、葉乾物含有量(LDMC)、葉窒素濃度(LNC)は特に樹木の成長特性を顕著に反映する指標として、葉の炭素安定同位体比(δ13C)は樹木の光合成における水の利用効率を反映する指標として知られている。明瞭な雨季と乾季がある熱帯季節林では乾季の乾燥が植物にとって大きなストレスとなっており、乾季に完全に葉を落とす落葉樹林が成立している。一方で、乾季にも葉を落とさない常緑樹林も見られ、乾燥ストレスに対する戦略が異なっている可能性がある。近接した場所での落葉樹林と常緑樹林の形成要因は明らかにされておらず、とりわけ東南アジアの熱帯季節林での研究例は少ない。そこで本研究ではカンボジア・Siem Reap州の熱帯季節林で、隣接する落葉樹林と常緑樹林の樹木の葉の形質4種類(SLA、LDMC、LNC、δ13C)を比較し、成長戦略や水利用戦略の樹種間の違いと森林タイプ間の違いを評価した。雨季の2023年6~7月に合計42樹種を含む214個体の葉を、各個体につき5~10枚採取し、生重と乾重の測定、スキャナーによる葉面積の算出、粉砕試料からN含有量とδ13Cの測定を行った。形質比較の結果、樹種間や森林タイプ間で有意差が見られ、常緑樹林のLDMCが落葉樹林より高く、落葉樹林のδ13Cが常緑樹林より高かった。これは落葉樹林に生育する樹木では常緑樹林の樹木に比べて葉の水分容量が多く、また、水利用効率が高いため、光合成において少ない水の損失量でより多くの同化産物を得るという戦略があることを示唆した。また、両森林共に生育する種のうちの一部では、森林タイプ間で一部の形質に差が認められたことから、形質の可塑性により、土壌水分などの生育環境の違いに対応しているものと思われる。