| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-196 (Poster presentation)
イワカガミSchizocodon soldanelloides var. soldanelloidesは山地帯から高山帯に自生するイワウメ科の多年草である。葉の形態が多様であり、葉の大きさによって林床型はオオイワカガミvar. magnus、高山型はコイワカガミf. alpinusと扱われているが、色素体DNAの分析から、これらの変異は連続的であるとされている。
発表者らが北アルプスの水晶岳で行った調査では、イワカガミは山地帯では林床、高山帯ではハイマツの林縁や岩場といった環境に生育しており、その葉のサイズも生育環境によって異なっていた。葉の大きさの変化には、低温や紫外線などの環境ストレスが影響するため、フラボノイドと呼ばれる抗ストレス物質を指標として、葉の機能的形質を調査した研究が存在する。しかしその成分測定は簡易な含有量調査であり、成分組成やその変化は明らかになっていない。
そこで本研究では、葉の形態とフラボノイドの質的・量的変化などに着目し、イワカガミの生育と化学成分の関連性を調査した。
まず各種クロマトグラフィーを用いて定性分析した結果、フラボノイド配糖体を20成分以上単離し、主要成分として、抗酸化力の高いアグリコン(フラボノイドの基本骨格)であるquercetin配糖体を同定した。
次に、これらの物質の変化を調査するため、環境や標高の異なる8地点3反復の定量サンプルを作成し、総フラボノイド量および各アグリコン量を比較した。その結果、類似した生育環境の個体では、生育高度と総フラボノイド量の増加には正の相関がみられた。さらに同程度の標高において、日照条件の良好な個体は、そうでない個体と比較して、総フラボノイド量および総quercetin量が有意に増加していた。
また葉の形態について、上記8地点の葉面積と重量を測定した結果、どちらの値も2,800 m付近で減少し、標高とは負の相関を示した。
以上より、イワカガミの葉のサイズは生育環境よりも標高が影響しているが、化学成分は標高だけでなく、日照条件にも左右されることが示唆された。