| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-197  (Poster presentation)

夜間LED照明が高木街路樹イチョウの光合成機能と成⻑に与える影響【A】
Effects of nighttime LED lighting on photosynthetic function and growth of Ginkgo trees【A】

*藤村風歌, 半場祐子(京都工芸繊維大学)
*Futa FUJIMURA, Yuko HANBA(Kyoto Institute of Technology)

夜間都市照明は自然な光周期を変化させ、街路樹の生理生態を乱し、緑陰形成や大気の浄化、季節感の提供といった重要な機能に悪影響を生じさせる恐れがある。しかし、夜間照明として急速に普及している白色LED光が街路樹に生じさせる影響については研究例が少ない。
そこで本研究では、街路樹の生理的な機能維持や街路景観の向上の一助となることを目的とし、代表的な高木街路樹であるイチョウを、夜間連続して白色LEDを照射し続ける処理区と自然日長の対照区を設定した温室で栽培し、条件間で光合成機能や生理的、形態的特性に生じさせる影響を比較した。
光合成機能として光合成速度、気孔コンダクタンスを測定し、得られたデータを用いて最大カルボキシル化速度(Vcmax)とチラコイド膜の電子伝達速度(J)を算出した。また、クロロフィル量の指標となるSPAD値や、葉の炭素安定同位体比を測定した。Δ13Cは長期的な水利用効率と負の相関を示す。

SPAD値は実験開始後から常にLED処理区の方が対照区より高い値を示した。クロロフィルの生合成は植物が光に曝されたときにのみ起こり、夜間はクロロフィル生合成が減少することで調節される。したがって、LED光は夜間のクロロフィル生合成の自然な減少を妨げ、これが照明処理区におけるクロロフィル量の増加を説明する可能性がある。
光合成機能については電子伝達速度で対照区が処理区より有意に大きかった。夜間のLED光による光周期の延長により、葉は概日リズムが妨害されて余分な光負荷にさらされ、光合成装置に障害を誘発して生化学的な機能が損なわれた可能性がある(Piccolo et.al, 2023)。
また、照明処理区は対照区より有意に炭素安定同位体比が小さく、LED光によって長期的な水利用効率に障害が生じている可能性が示唆された。
結論として、夜間LED光はイチョウの街路樹としての機能に生理的な変化を生じさせている可能性があり、都市照明のLED化の影響評価が必要であることが示唆された。


日本生態学会