| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-201 (Poster presentation)
森林内の光環境は空間的異質性が高く、樹木はその光量や光質の差異を感知して成長戦略に利用する。一般的な光強度の指標である相対光量子束密度(rPPFD)と枝軸成長の関係に関しては多くの先行研究がある一方、競争環境の重要な指標とされる赤色光と遠赤色光の量比(R:FR比)と木本植物の伸長成長との関係についての研究例は少ない。本研究では、耐陰性の高いオオモミジと比較的光要求性の高いイタヤカエデの同属2種を対象に、個体レベルと枝レベルの光条件(rPPFD、R:FR比)が伸長成長に及ぼす影響を北海道大学苫小牧研究林にて調べた。各樹種について孤立木1個体と、複数の競争木と隣接する個体2本を選木し、芽形成期である6-8月に各個体の樹冠頂端部の枝について、明条件(無処理)、寒冷紗被覆(明条件よりrPPFD低下)、メガクール被覆(明条件よりrPPFD低下、R:FR比増加)、自己被陰(明条件よりrPPFD・R:FR比低下)の4種類の光条件を設定した。翌夏のシュート伸長停止後に、各処理に供した一年枝の枝あたり当年枝数(芽数)とリーダーシュートの伸長量を測定し、個体と枝の光条件の影響を調べた。オオモミジでは、孤立木と競争木で枝の光環境の影響が異なった。すなわち、競争木ではR:FR比とrPPFDが伸長量に対して正の効果を与えたが、孤立木ではいずれも負の効果を与えており、また芽数は孤立木では枝の光環境の影響は受けなかったが、競争木ではrPPFDが高いほど増加した。一方イタヤカエデでは、自己被陰の枝が他処理の枝より伸長量が小さく、また競争木のうち1個体のみで高R:FR比による芽数の増加がみられた以外、光条件による伸長成長への影響は検出されなかった。以上の結果より、同属でも個体および枝の光環境に対する感度と反応が異なることが示唆された。こうした光利用の違いは、先行研究で指摘されている2種の冬芽の構造や伸長様式、光要求性の違いに対応していた。