| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-210 (Poster presentation)
主に千葉県房総半島から静岡県御前崎までの海岸に分布するイソギクは、葉に多型性がある。そして、これは海水の飛沫や飛来塩分などが形成する環境勾配に沿って葉の形質が連続的に変化した結果である可能性がある。本研究では、神奈川県三浦半島の「黒崎の鼻」で、イソギクの葉形質の空間分布や、葉の付着塩分量との関係を調査した。
葉形質については1個体あたり10枚の成熟葉を選び、葉身長・葉幅・厚さ・欠刻の数・葉面積を測定した。個体の付着塩分量の測定については葉の表面を洗い流し、その溶液の質量と塩分濃度から付着塩分量を求め、単位葉面積あたりの付着塩分量を算出した。調査した個体は位置情報を記録し、海岸線からの距離を測定した
上記の現地調査に加えて栽培実験も実施した。欠刻を持つグループと持たないグループ(いずれも4個体)を用意し、それぞれの個体に濃度の異なる4種類の塩水を3日おきに霧吹きで吹きかけた。栽培終了後、野生の個体と同様に葉形質を測定したほか、LMAを算出した。
葉の付着塩分量は海岸線からの距離と相関を示さなかったが、飛来塩分量を測定した先行研究の結果やサンプルサイズの小ささを考慮すると、実際には海岸線から離れるにつれて付着塩分量は減少する傾向があると考えられる。葉の形質について、縦横比は海岸線からの距離との間に有意な相関は見られず、厚さと欠刻数は海岸線から離れるほど増加する傾向にあった(無相関検定, p<0.05)。また厚さは付着塩分量が多いほど大きくなる傾向があった(Jonckheere-Terpstra検定, p<0.01)。栽培実験の結果、LMAと葉厚はどちらも高塩分濃度の処理区ほど増加する傾向にあった。縦横比と欠刻数については一貫した結果は得られなかった。
これらの結果から、イソギクの葉形質の内、厚さがクラインを形成しており、その原因となる環境要因は付着塩分量であると考えられる。この変異は、塩ストレスによる過剰な蒸散の抑制に役立っていると考えられる。