| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-213  (Poster presentation)

強い採食圧が葉の機能形質および菌核菌感染耐性に与える影響【A】【O】
Effects of grazing pressure on leaf functional traits and resistance to infection of a generalist fungus Sclerotinia sclerotiorum【A】【O】

*宮田紗和子(東北大学), 黒川紘子(森林総合研究所), 山川真広(東北大学), 彦坂幸毅(東北大学)
*Sawako MIYATA(Tohoku Univ.), Hiroko KUROKAWA(FFPRI), Masahiro YAMAKAWA(Tohoku Univ.), Kouki HIKOSAKA(Tohoku Univ.)

 多くの植物のデータをプールすると、光合成や葉寿命などの葉形質間には相関が見られ、葉経済スペクトル(LES)と呼ばれる一本の軸に収斂する。これは、資源獲得戦略と資源保持戦略のトレードオフを表すと考えられている。一方、似たような概念として、成長-防御トレードオフ(GDT)がある。この概念では、被食などを避けるために防御へ資源投資をすると成長が犠牲になると考える。両者の軸は完全に一致するのだろうか。
 宮城県金華山島ではニホンジカが高密度で生息し、強い採食圧によって植物の被食防御にコストがかかっていると予想される。LESとGDTが一致するならば、金華山の植物の葉形質は、資源保持戦略側にシフトし、LESとGDTがリンクしていないならば、金華山の植物と他地域の植物ではLESの軸が異なるのではないかと予想した。
 また、被食防御は病原菌防御に有効か、という疑問も立てた。当研究室では、ジェネラリストな病原菌である菌核菌を用いた感染抵抗性を評価する実験系を保有している。哺乳動物の採食圧に強い植物は、病原菌感染にも強いだろうか。
 金華山島および仙台市青葉山周辺で、同種あるいは近縁種で15種のペアを作り、葉形質を測定した。また、両地域で採取した葉に菌核菌感染実験を行い、一定時間経過後の感染率を算出した。
 それぞれの葉形質には有意差はなく、LES軸上でのシフトはないと考えられた。葉形質間の相関では、葉面積あたり葉重-葉窒素濃度関係は、有意ではなかったものの切片に違いが認められ、LES軸のシフトが起こっていると考えられた。LESと成長-防御トレードオフは、必ずしも1本の軸上で共通したものではないことが示唆される。
 菌核菌の感染率は、青葉山と金華山の間で大きな違いは認められなかった。シカに対する被食防御は、葉面からの菌核菌感染耐性には寄与していないと考えられる。


日本生態学会