| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-214 (Poster presentation)
サトイモ科のクワズイモ Alocasia odora では、仏炎苞と呼ばれる苞に包まれるように1つの肉穂花序が形成され、上から付属体、雄花序、中性花序、雌花序と並んでいる。仏炎苞が開くと、まず雌花序が受粉するステージを経た後雄花序が花粉を放出する。数日程度を要するこの一連の開花期間に訪花した送粉者である2種のハエ成虫は開花期間が終わるまで花序内にとどまる。成虫は花序で交尾や産卵を行い、そこで孵化した幼虫は花が終わった後に枯死する部位を食べて育つ。クワズイモは、成虫に対する報酬の提示場所を開花中に変化させ、送粉者を意図した部位(雌花序→雄花序)に移動させる。はじめに雌花序に誘引する際には、雌花序の直上にある中性花序から蜜様の物質を分泌することがわかっている。一方で、花粉放出直前から直後にかけて雄花序で前脚を用いてさかんに採餌する様子は観察されるものの、雄花序での報酬についてはよくわかっていない。そこで本研究では、パラフィン包埋を用いてクワズイモの開花ステージごとに作成した切片の染色により、花粉放出時に雄花序で放出される物質を観察した。
まず、クワズイモの雄花序の基本的な構造を確認するために、ヘマトキシリン・サフラニン・ファストグリーンの三重染色を行った。その結果、表皮、内被、花粉粒などの基本構造を観察できた。次に雄花序での分泌物が糖であるか否かを確認するためにPAS染色を行ったところ、陽性反応は確認できなかった。先行研究によると、クワズイモの中性花序でハエが採餌している花蜜の構成成分は糖とアミノ酸であり、脂質は含まれていなかった。そこで、ハエ成虫の栄養欲求性から雄花序からハエが採餌しているのは脂質ではないかと考え、オスミウムによる脂質の染色を行った。その結果、細胞間において粒状、液体状の2種類の物質の染色が確認できた。以上の結果に基づいて、クワズイモが成虫を雄花序に誘引する報酬物質について考察する。