| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-216  (Poster presentation)

Geographical variations in  BVOC emissions from Japanese cedar : An approach based on common field experiments【A】【O】

*Yuki OTA(University of Tokyo, NIES), Takuya SAITO(NIES, University of Tokyo), Tetsuo I KOHYAMA(University of Tokyo), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku University), Yoshihiko TSUMURA(University of Tsukuba), Tsutom HIURA(University of Tokyo)

生物起源の揮発性有機化合物(BVOCs)は、生物が放出する常温常圧で気体の化学物質群であり、その酸化過程はオゾンや二次有機エアロゾル(SOA)の形成を通して大気環境に影響を及ぼす。このため大気圏と生物圏の相互作用の理解には、その地域で優占する種がどのようなBVOCsを放出するのかを把握することが必要である。植物によるBVOCsの放出には種間だけでなく個体間でも大きな差異が認められているが、その変動要因は明らかになっていない。そこで本研究では、遺伝的背景や生育環境がBVOCs放出特性に与える影響の解明を目的とし、国内の森林で優占し種内の遺伝的・形態的変異が明らかにされているスギ(Cryptomeria japonica)の産地とBVOCs放出速度との関係を調査した。
BVOCs放出速度の測定は2ヶ所の共通圃場(宮城県と茨城県)に生育する3産地(鯵ヶ沢(青森県)、安蔵寺(島根県)、屋久島(鹿児島県))に由来する挿し木クローンを対象に行なった。針葉から放出されるBVOCsは、枝を覆ったバッグに通気するダイナミックエンクロージャー法を用いて吸着管に採取し、前処理後にガスクロマトグラフ/質量分析計に供した。分析の結果、モノテルペン12種、セスキテルペン6種、ジテルペン2種が検出され、主要な化合物はα-pinene、sabinene、β-farneseneであった。BVOCsの総放出速度は両共通圃場とも、屋久島由来のスギが他の2産地よりも小さい傾向を示した。一方、BVOCs放出組成には共通圃場間で違いが見られた。こうした結果から、スギからのBVOCs放出速度には、遺伝的な要因だけでなく生育時の環境要因も影響していることが示唆された。なお、BVOCs放出速度にはクローン内差、クローン間差があることも明らかになったので、その結果についても報告する。


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