| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-217 (Poster presentation)
常緑樹と落葉樹の葉には、資源獲得戦略を反映した形質分化が見られる。常緑樹は葉重量あたりの光合成速度が低く、葉寿命が長い保守的形質、落葉樹は光合成活性が高く、葉寿命が短い獲得的形質を示す。一方で根には、形態的形質(根長、表面積)や生理的形質(酵素、滲出物の分泌)など栄養獲得に関わる多様な形質が存在する。これまで貧栄養適応的とされる常緑樹種の細根は、寿命が長く生理活性の低い保守的な形質に収斂すると考えられてきた。しかし、この仮説は常緑樹と落葉樹の間で検証されておらず、両者の地下部の形質の違いは明らかになっていない。本研究は、常緑樹と落葉樹での葉・根形質の差異を評価し、形質分化の実態を明らかにすることを目的とした。
京都市内の吉田山に自生する常緑―落葉樹種の同科ペアを対象とした(計5科10種30個体)。各個体の葉の厚さの指標(Leaf Mass per Area, LMA)と葉の窒素(N),リン(P)濃度、細根滲出物滲出速度、フォスファターゼ活性、細根形態(細根組織密度、直径、比表面積)を測定し、土壌無機態N濃度、可溶性P濃度も測定した。そして葉・根形質における生活型間の差異を、系統、土壌条件を考慮した重回帰分析で評価した。
従来の研究と同様、常緑樹は落葉樹よりもLMAが高く栄養塩濃度が低い傾向が得られ、保守的な葉を持つことが示された。また、常緑樹は根の比表面積が低く、組織密度は高かった。従来の仮説どおり、常緑樹は耐久性が高く、栄養吸収効率が低い形態の根をもつことが示された。一方で、根の生理的形質には有意な差はなく、特に細根滲出物滲出速度は、従来の仮説とは逆に常緑樹でやや高い傾向があった(常緑樹vs 落葉樹;0.62 vs 0.46 mg C g-1 hr-1 )。これらの結果から、常緑―落葉樹間の根形質の分化は、葉形質で見られた獲得―保守の関係に必ずしも従わず、常緑樹は根の寿命を高めながら、生理活性を維持していることが示唆された。