| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-220  (Poster presentation)

ブナ林における空間的な根部共生微生物の共有構造【A】【O】
Spatial sharing pattern of root-associated microbe in a beech forest【A】【O】

*野口幹仁(京都大学), 東樹宏和(京都大学), 陶山佳久(東北大学), 高橋大樹(東北大学)
*Mikihito NOGUCHI(Kyoto Univ.), Hirokazu TOJU(Kyoto Univ.), Yoshihisa SUYAMA(Tohoku Univ), Daiki TAKAHASHI(Tohoku Univ)

  森林生態系の地下部において、多様な根部共生微生物が植物群落の中で共有され、不均一な空間構造を形成している。こうした植物間での微生物の共有は、宿主植物の適応度への影響を介して実生をはじめとする植物の密度を変化させ、植物―土壌フィードバックを駆動すると考えられている。そのため、このフィードバックは森林生態系の動態を理解するうえで重要であるが、関与する根部共生微生物の生態の大部分は明らかにされておらず、これらの微生物が形成する空間構造の網羅的理解には至っていない。
  そこで、本研究では、根部共生微生物の空間的な共有パターンを網羅的に定量評価するために、東北大学川渡フィールドセンター内のブナ林にて、全体で0.5 haに及ぶ5m間隔の格子点に基づいた231地点の土壌中の植物根と近傍のブナ・ミズナラ実生69個体のサンプリングを行った。得られた細根に対しては、定量的DNAメタバーコーディングにより、真菌513 OTU・細菌2190 OTUの分布情報を高解像度で取得した。
  その結果、調査した231地点のうち、細菌では最大で208地点、真菌では159地点から検出された、広範に共有されたOTUが存在する一方で、出現頻度の低い真菌・細菌が大きな割合を占めていることが明らかとなった。この中で、地下部にて空間構造を形成していると考えられる出現頻度が大きい真菌・細菌に関して、空間ラグモデルを適用した結果、調査地内において、広範囲に及ぶ共有と局所的な共有という二つの空間的な共有パターンが存在することを示した。また、このモデルを用いた、実生細根における微生物の存在量の予測値と実測値の比較から、一部の優占的な外生菌根菌と内生菌が、実生において予測されるよりも大きな存在量を持つことを示した。
  これらの結果から、森林地下部において、一部の優占的な根部共生微生物が持つ広域的、または局所的な共有パターンが空間的に重複することで、森林生態系の動態を駆動している可能性が示唆された


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