| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-223 (Poster presentation)
中大型哺乳類は「恐れの景観」と呼ばれる捕食リスクの高まる景観を認識することで、生息地利用を時空間的に変化させている。高密度化するシカの採食に伴う植生改変は、下層植生を潜伏場所として利用することで、捕食者からの発見を防ぐ「潜伏タイプ」の種に「恐れの景観」を生み出す可能性がある。一方、捕食者の早期発見のため見通しの悪い景観を避ける「逃走タイプ」の種は、植生の改変に伴い捕食リスクが軽減する可能性がある。ただし、「恐れの景観」は人為的な影響(捕獲等)の多寡によっても変化することが知られている。そこで本研究では、「潜伏タイプ」として知られるツキノワグマ、イノシシ、カモシカ、タヌキ、アナグマ、ノウサギはシカにより植生が改変され、人為的影響の強まる景観で生息地利用が減少する(H1)、「逃走タイプ」のシカは自身の採食により見通し距離の増加した景観で人為的影響が軽減される(H2)、と予想した。この仮説を検証するため、2023年の6月から10月まで福島県南会津町に41台のカメラトラップを設置し、シカの植生改変と人為的影響が中大型哺乳類の空間利用度(一週間の撮影回数)と夜行性度(正午までの時間の絶対値)に与える影響を一般化線形混合モデルにより評価した。その結果、シカが植生改変した景観でカモシカ(係数=−1.54)とノウサギ(−1.37)の空間利用度が減少した。また、人口密度の高い景観でクマ(1.04)、道路から近い景観でタヌキ(−0.86)の空間利用度が増加したが、シカの植生改変に伴いクマは空間利用度が減少し(−1.51)、タヌキは夜行性度が上昇(0.08)した。一方、シカは自身の採食により植生を改変した景観で空間利用度が増加(1.02)した。よって本仮説は部分的に支持され、シカによる植生改変は人為的影響と相互作用することで、時空間的に変化する「恐れの景観」を生み出している可能性が示唆された。