| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-224 (Poster presentation)
野生動物による、人為的食物のひとつである栽培果実の利用は、人間と野生動物の軋轢を助長する原因となりうる。積雪環境では中型食肉目の餌資源が制限されるが、冬期にも果実が残っている放棄果樹は中型食肉目にとって重要な餌資源になっている場合がある。しかし、そのような果実をどこで、いつまで利用しているのかは不明である。本研究では、多雪環境における中型食肉目による栽培果実の利用について、周辺景観とカキの利用期間の観点から評価した。
調査は山形県鶴岡市で行った。まず、栽培果実の利用と周辺景観の関係を調べるために、2023年3月から4月に鶴岡市の広範囲でキツネとテンの糞サンプルを採取した。糞から栽培果実が出現したかどうかを周辺景観で説明する一般化線形モデル(GLM)を構築した。次に、カキの利用の詳細を調べるために、2022年12から2023年4月まで西荒屋地域にカメラトラップを設置し、キツネ、タヌキ、テンの撮影頻度データを入手し、写真から行動も記録した。各月における対象種の撮影頻度をカキの木からの距離や他の環境要因で説明する一般化線形混合モデル(GLMM)を構築した。
糞分析の結果、キツネとテンは冬期も広範囲で栽培果実を利用していた。GLMの結果、両種とも周辺農地率が高い場所で栽培果実が多く出現した。また、GLMMの結果、果実が落果した1月を中心にカキの木から近い距離で中型食肉目が多く撮影された。キツネとタヌキでは、採餌に関わる行動が1月に多く撮影されたが、1月以外にはあまり観察されなかった。本研究の結果により、中型食肉目による栽培果実の利用は、積雪環境であっても広範囲に共通していることが明らかになった。ただし、積雪地域では落下した果実が雪に埋もれてしまい利用が難しくなることから、落果直後などの採餌できるタイミングに集中的に利用している可能性も示された。