| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-225 (Poster presentation)
地方の人口減少に伴い増加が懸念される耕作放棄は日本の生物多様性の危機の1つとして数えられ、また様々な生態系サービスの変化をもたらす。近年、耕作放棄への対策として粗放的農業への転換、作付けを伴わない除草管理、林地への転換などの「代替的な農地管理」が政策に取り入れられ始めている。一方で既往研究の多くは農地管理を従来の営農の継続と耕作放棄の二元論で捉えており、代替的な農地管理による影響は評価されていない。本研究はシナリオ分析を用いて代替的な農地管理による生物多様性と生態系サービスへの影響の評価を目的とした。福井県を対象地として、TerrSet Land Change Modelerを用いて国土数値情報土地利用細分メッシュ(空間解像度100m)の2006年~2016年の土地利用変化をもとに、農地から森林への遷移を説明する予測モデルを作成した。それを基に2050年までに①耕作放棄のみが生じるシナリオ、②粗放的管理が行われるシナリオ、③植林と森林管理が行われるシナリオを作成した。その後、各シナリオについて炭素貯留、水供給、窒素流出抑制の3つの生態系サービスと、生物多様性の代替指標として景観異質性を評価した。耕作放棄の進行によって全てのシナリオで炭素貯留が増加、水供給が減少、窒素流出が減少、景観異質性が低下した。これらの変化は耕作放棄が顕著に進行した急傾斜の地域に集中していた。利用低下が見込まれる農地において代替的農地管理(②粗放的管理や③森林管理への転換)を積極的に進めるシナリオは、①耕作放棄のみのシナリオよりも大きく炭素貯留が増加、水供給が減少、窒素流出が減少した。また、②粗放的管理シナリオでは①耕作放棄のみと比べて景観異質性が高く保たれた。これらの代替的な農地管理による変化は、農地管理の転換量が大きい緩傾斜の地域に集中していた。本研究は、代替的な農地管理への転換は主に緩傾斜地域の生態系サービスや景観構造に大きな変化をもたらす可能性を示している。