| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-228 (Poster presentation)
気候変動が食物網にどのような影響を与えるのかを理解することは、群集や生態系機能の変化を予測する上で重要である。これまで気温の上昇や降水パターンに着目した研究は多く行われてきたが、積雪量の変化による影響を評価した研究は限定的である。積雪は北半球の多くの地域に生じ季節的に特異な環境と種間相互作用を形成することから、その変化は捕食-被食関係に影響をもたらすと予想される。本研究では中型食肉目動物(キツネ・テン)を対象に、冬季の哺乳類利用を積雪量の異なる年と景観で比較することで、積雪量の変化が哺乳類間の捕食-被食関係に与える影響を評価した。
2019年から2021年の12月から4月にかけて、山形県庄内地方の森林や農村景観でキツネとテンの糞サンプルを採取した。糞を洗浄し、残渣から出現した毛や骨を基に、小型哺乳類、ウサギ類、中大型哺乳類に分類し、出現頻度(%)を算出した。また、積雪量の違いが各哺乳類の利用頻度に与える影響を評価するため、各哺乳類の出現の有無と積雪量(小雪年:2019年度、多雪年:2020年度)および景観(森林、農村)の関係を解析した。
糞分析の結果、キツネとテンは多雪年度に小型哺乳類と中大型哺乳類(おそらく遺体)を主に利用していたが、小雪年度では小型哺乳類の利用が大きく増加した。また、森林景観では小型哺乳類と中大型哺乳類を利用していたが、農村景観においては主に小型哺乳類を利用していた。いずれの年度と景観においてもウサギ類の利用頻度は相対的に小さかった。本研究により食肉目動物は積雪量や景観によって利用する哺乳類の種類を柔軟に変化させていることが示唆された。また、長期的な積雪量の減少は小型哺乳類への捕食圧を増加させる可能性がある。本発表ではさらに2022年度および2023年度の糞サンプルを追加し、積雪量の変化が中型食肉目動物の捕食-被食関係にあたえる影響について考察する。