| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-234  (Poster presentation)

八甲田山におけるブナの稚樹・実生の個体数は標高と地域でどのように異なるのか?【A】
How do the numbers of saplings and seedlings of beech differ among elevations and regions in Hakkoda mountains ?【A】

*猪股龍希, 石田清(弘前大学)
*Tatsuki INOMATA, Kiyoshi ISHIDA(Hirosaki Univ.)

 地球温暖化に伴い樹木の分布は変化している。Matsui et al. (2018)によると、今後ブナ林は低標高地域や少雪地域で減少するとされている。一方、多雪山地での標高や積雪などに着目したブナの更新に関する研究例はない。本研究では過去に異なる人為的攪乱を受けた青森県の八甲田山において、(1)ブナの稚樹・実生が低標高より高標高で多い、(2)標高間の傾向は攪乱の影響で異なるという仮説を検証した。
 2022年に八甲田山の標高331m~992mにかけて25m×25mの調査区を15地点29箇所に設置し、胸高直径2cm未満の大稚樹の個体数を調査した。また、ササの被度及び充実種子数も調査した。2023年に各調査区内に10m×1mの実生区を設置し、樹高130cm未満の個体数を春及び秋に調査した。これらは2023年に発芽した当年生実生とそれ以外の小稚樹に分けられた。環境条件では最大積雪深及び開空度を調査した。八甲田山は過去の攪乱の違いにより十和田地域と青森地域に分けることができ、この地域性にも着目した。
 春の当年生実生は両地域とも低標高で多かったが、秋の当年生実生は十和田地域では春と同様に低標高で多く、青森地域では逆に高標高で多かった。春の小稚樹は十和田地域では低標高で多く、青森地域では高標高で多かった。秋の小稚樹の傾向は春と変わらなかった。大稚樹は標高間での傾向はなかったが、十和田地域の方が青森地域よりも多かった。当年生実生の傾向は積雪などの気象条件の違いによるもので、小稚樹の傾向は当年生実生の傾向を反映していると考えられる。大稚樹では気象条件よりも過去の攪乱によるササの被度の違いが重要であると考えられる。この結果はブナの初期更新を調査するうえで、気象条件の他に攪乱履歴を明らかにすることの重要性を示している。また、ブナの定着において十和田地域では暗い環境が、青森地域では明るい環境が重要であった。これは十和田地域では春の乾燥害が、青森地域では菌類の被害が定着を妨げていることを示唆する。


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