| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-235 (Poster presentation)
半自然草地は、人為的管理によって維持されてきた生物多様性の高い草地生態系である。しかし近年、世界的にその管理放棄が進んでいる。温帯域の半自然草地は、放棄されると森林化して階層化が進む。例えば樹冠層に生息する昆虫にとって、捕食者、餌資源、生育基盤(生葉、枝、樹幹、枯れ葉)の量や質、分布パターンは、地表のそれとは異なるため、群集構造も地表のものとは異なると考えられる。草地放棄後の生物多様性を包括的に理解するには、森林化以降は地表と樹冠の両方において、複数の栄養段階を跨いだ多様な分類群の群集構造を把握することが望まれる。しかし、技術的・労力的な難しさからそのような研究はない。そこで本研究は、熊本・阿蘇外輪山における半自然草地の放棄後遷移に沿って、植物・昆虫の群集構造を調べた。草本層と林冠層の昆虫群集は、それぞれスウィープ法とブランチクリップ法で調べた。
植物は320種、昆虫は13目615種得られた。半自然草地における植物の種数・希少種数は高かったが、放棄により低下した。草本層の昆虫は、放棄により植食者の個体数は減少したが、それ以外の昆虫、特に腐食者が増加した。これは、遷移の進行にともなって腐食者が利用する資源、特に木質リターが林床に増えたことによると考えられる。林冠層における昆虫の種数・個体数は、草本層におけるそれと同程度に高かった。その種組成は、植食者の割合が特に高く、林冠を形成し始めた低木林の時点で草本層とは異なる特有なものだった。また、遷移が進行しても種組成はあまり変化しなかった。このように、草地放棄は植物の希少種を減少させるが、森林化すると比較的すぐに林冠層特有の昆虫群集を形成することが分かった。草地放棄後の生物多様性の変化を理解する上で、林冠の昆虫も含めた包括的な生物多様性の把握が求められる。