| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-239 (Poster presentation)
外生菌根菌(以下、菌根菌)は、樹木の成長と定着に不可欠な共生菌類である。菌根菌の一部は耐久性の高い休眠胞子を形成し、土壌中に埋土胞子として存在する。埋土胞子は山火事などの攪乱後に先駆樹木が侵入する際の重要な感染源となって実生更新を支えるが、その菌種や群集の特徴に関してほとんど知られていない。本研究では先駆樹木の代表であるマツ属を対象に埋土胞子群集を調査した。対象はこれまで調査が行われたヤクタネゴヨウとハイマツに、アカマツ、クロマツ、リュウキュウマツ、ゴヨウマツ、チョウセンゴヨウを加えた日本産固有マツ属全7種とした。各種が優占する林分で成木周辺から21–50の土壌コアを採取(計30地点1014コア)し、1か月以上の風乾後、菌根菌の釣菌試験に用いた。各調査地で優占するマツ属の無菌発芽種子を、調査地土壌で6–10か月間育成し、土壌中の胞子から実生に菌根を形成させた。菌根は形態類別を行ったのち、CTAB 法でDNA抽出、rDNAのITS領域をサンガー法でシーケンスし、菌種を同定した。その結果、マツ属全7種の林分土壌で育成した実生から5436 根端を取得し、約50 OTUs(操作的分類単位:Operational Taxonomic Units)の菌根菌を検出した。この数字は同地点の成木から検出された菌根菌の総OTU数の約1/10であった。また、埋土胞子群集で優占した菌根菌OTUはマツ属に特異性の高いヌメリイグチ属やショウロ属であり、成木菌根の群集で優占した宿主特異性の低いベニタケ属やフウセンタケ属は全く観察されなかった。以上の結果から、マツ属実生の定着には宿主特異性の高い一部の菌根菌が中心的な役割を果たすことが示唆された。これらの親和性の高い菌根菌が他の樹種よりも優先的にマツ属と共生関係を構築し、攪乱後における本邦マツ林の成立を支えていると考えられる。発表では、観察された菌根菌OTUの詳細や宿主特異性、成木の菌根菌群集との比較などについて報告を行う。