| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-250 (Poster presentation)
落葉の質やその変化は分解過程や生態系の物質循環に大きな影響を与える。特に葉の養分濃度は分解や物質循環速度に影響を与える形質として知られている。落葉の養分濃度の経時変化に影響を及ぼす要因の一つとして 人間活動の増大による窒素負荷が挙げられる。しかし、森林や草地においては北米・ヨーロッパを中心に植物体中の窒素濃度や窒素安定同位体比の経時的な低下が観測されている。このような変化は、大気中の二酸化炭素濃度上昇に伴って起きると考えられている。日本においてもモニタリングサイト1000の大部分の森林サイトで堆積落葉層の窒素濃度の低下やCN比の上昇が観測されている。しかし、堆積落葉層は分解や溶脱の影響を既に受けているため、植物体中の養分濃度を正確には示していない。
本研究では、モニタリングサイト1000森林コアサイトのうち雨龍(針広混交林)、足寄・苫小牧・小川・秩父(落葉広葉樹林)、綾・田野(常緑広葉樹林)の7サイトで、2006年から2020年の間にリタートラップで回収された落葉の炭素濃度(C)、窒素濃度(N)、リン濃度(P)、窒素安定同位体比(δ15N)、葉重/葉面積比を測定した。今回の発表では、各サイトごとに優占2樹種、各年3反復を解析の対象とした。
δ15Nは全てのサイトでいずれかの樹種が減少傾向にあった。また、N、Pは減少、CN比は上昇していたサイトがあった。δ15Nは植物の窒素利用可能性の指標であることから、日本各地の森林において窒素利用可能性が低下している可能性がある。この変化によってNの低下、CN比の上昇という変化が見られたサイトがあると考えられる。リタートラップの落葉では、堆積落葉層と同様の傾向が検出されないサイトも多かったが、これは堆積落葉層の分析では樹種分けがされずバルクで分析していることも一因と考えられる。今後対象樹種を増やし、養分濃度変化の樹種間差のメカニズムの解明につなげたい。