| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-252 (Poster presentation)
近年、気候変動を緩和する炭素隔離技術として、バイオチャーが有望視されている。バイオチャーは有機物を低温炭化して作製したもので、実際に農地に散布した例や、散布した際の生産系の応答については多くの報告がある。しかし、面積的に大きく、重要な炭素吸収源である森林生態系にバイオチャーを施用して応答を調べた例は極めて少ない。また、バイオチャーによる炭素隔離を考える上で重要な分解系についての知見も限られている。さらに、その分解系の応答における森林タイプによる違いも調べられていない。そこで本研究では、わが国の代表的な3つのタイプの森林(コナラ林、スギ林、アカマツ林)を模したポット栽培実験を行い、バイオチャーが分解系に与える影響を評価することを目的とした。
このポット栽培実験では、玉川大学実験圃場において、バイオチャーを散布していない対照区、乾燥重量ベースで10 t ha-1散布したバイオチャー区を作成した。できるだけ実際の森林を模した実験を行うため、各樹種のウッドチップで作製したバイオチャーと実際の林地で採取した土壌を用いた。分解系の応答として、炭素循環において重要である土壌呼吸(SR)と従属栄養生物呼吸(HR)を測定し、環境要因として継続的に土壌温度、体積土壌含水率を測定した。また、ポット内の土壌の物理化学性についても分析した。
実験の結果、すべての樹種においてバイオチャー散布によるSR、HRの有意な変化は見られなかった。また、土壌温度、土壌含水率についてはすべての樹種においてバイオチャー散布により増加したが、土壌の物理化学性については概して大きな変化は見られなかった。土壌温度、土壌含水率が増加したのにも関わらず、SR、HRの変化が見られなかった理由として、今回のポット栽培実験では土壌温度の増加がわずかであったこと(<0.3℃)、また土壌水分がSR、HRの制限要因ではなかったことが考えられた。