| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-255 (Poster presentation)
地衣類は真菌類と藻類の共生体である。地衣類は藻類の光合成によって生育するため森林内で生産者として維管束植物と同様の働きを持つと考えられている。一方、物質循環に対して維管束植物と異なる影響を与えうる形質も持ち、分解系で独自の役割を果たしている可能性がある。しかし、地衣類は森林内において樹幹に着生し林冠で優占するため地上から認識されにくく、これらの役割は見落とされてきた。分解系のうち、林冠から地上への地衣類リター供給量に着目して複数の森林の地上を観察すると、地衣類リター量は森林構造に応じて変化しているように見受けられた。本研究では地衣類リター量は森林構造や微気象から影響を受けると仮説を立て、地衣類の物質循環への量的寄与を検証した。
西日本の冷温帯林8林分におけるリタートラップによるリター収集(2022年9月〜11月)の結果、全リター量に占める地衣類リター量の割合は0〜0.44%であった。この結果は北米温帯林における既往研究の約0.5%を下回ったが、リター収集方法や収集期間の違いによって本研究では地衣類リター量を過小評価している可能性がある。地衣類リターを簡易的に同定したところ12属が確認され、林分特異的な属や全属数は林分間で異なっていた。地衣類リター量は比較的少ないが、分解におけるその質的特性を考慮すると、一部の森林の物質循環に対して無視できない程度の寄与があると考えられた。地衣類リター量を応答変数、各林分の森林構造(胸高断面積合計(BA)、立木密度)と微気象(平均温湿度、平均温湿度日較差)を説明変数に用いた重回帰分析では、いずれの変数の回帰係数も有意ではなかった。各林分を構成する17樹種毎のBAを説明変数に用いた重回帰分析では、地衣類リター量はカツラおよびミズナラのBAと有意な正の相関があった。同様に、樹種毎の立木密度を説明変数に用いた重回帰分析では、カツラおよびトチノキの立木密度と有意な正の相関があった。