| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-256 (Poster presentation)
熱帯林では、土壌風化の進行によりリン(P)の可給性が低く、樹木の生理学的プロセスの制限要因となっている。熱帯樹木は、Pを落葉前の葉から樹体に引き戻して新しい葉に転流することで、P利用効率を高めてその生産性を維持しているとされる。一般に、極相種は保守的(成長速度が遅く、獲得した栄養塩を効率的に使う)であるが、パイオニア種は「ぜいたく」(成長速度が速く、栄養塩を非効率に使う)であることが知られる。また、共生菌根菌タイプ{外生菌根(ECM)またはアーバスキュラー菌根(AM)}間でも栄養塩利用特性が異なる可能性が示唆されている。しかし、野外施肥実験による研究がほとんどないことや限られた機能群(例えばAM・極相種)のみによる検証が多いために、P欠乏下の熱帯林における栄養塩再吸収の重要性とその機能群間差は検証できていない。そこで、マレーシア・サバ州の熱帯低地林の野外施肥試験地{4処理(対照・窒素(N)・P・NP)}において、遷移段階や共生菌根菌タイプが異なる9樹種の生葉と葉リターを採取し、葉におけるN・P再吸収効率を樹種ごとに定量した。
予想に反して、対照区でのP再吸収効率は機能群間で変わらず、N再吸収効率は極相種よりもパイオニア種で高かった。この結果は、高い材成長速度を持つパイオニア種のN要求度の高さを反映していると考えられる。また、ECM性極相種は、P再吸収効率がP施肥により低下したことから、P欠乏下でP再吸収効率を高く維持していると考えられる。しかしAM性極相種のP再吸収率はP施肥では変化せず、N施肥により増加した。AM性極相種は、菌糸を介したN獲得能がECM種よりも低いため、葉におけるP再吸収プロセスがNによって制限されている可能性がある。本研究の結果から、遷移段階や菌根菌タイプが熱帯樹木のN・P利用戦略を規定している可能性が考えられる。