| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-257 (Poster presentation)
土壌風化が進んでいる湿潤熱帯では、森林の生産や分解がリンPにより制限されている。熱帯樹木はこうした低P環境において、材P濃度の低下、材に対する葉へのP配分の増加、心材化(老化)してゆく辺材からより外側の辺材へのP転流の促進、などを通して効率的にPを利用している。このような材における栄養塩貯留特性は、樹木の成長特性(極相種やパイオニア種)や菌根菌タイプ{アーバスキュラー性(AM)や外生菌根性(ECM)}などの機能群によって異なる可能性があるものの、研究例は少ない。また、栄養塩制限を直接的に検証できる野外施肥実験区における研究例もない。そこで、マレーシア・サバ州の野外施肥実験区{4処理(対照・窒素N・P・NP)}において、遷移段階(極相とパイオニア種)や菌根菌タイプ(AMとECM種)の異なる7樹種における材の栄養塩貯留特性を調べた。外側(樹皮下から0-5 cm深)と内側(5-10 cm深)に分けた材コアと林冠葉についてN・P濃度を調べた。
対照区において、極相-ECMと極相-AM種1種は、他種よりも材内側・外側のP濃度が低く、P転流効率(材内側から外側への濃度変化率)が高かった。このことから、菌根菌タイプに関わらず、極相種は低い材P濃度と高い転流効率を通して保守的にPを貯留していると考えられる。また材外側のP濃度は、P施肥によって多くの種で増加したことから、P欠乏下の熱帯樹木は、機能群によらず材外側P濃度を低く維持していることが示された。さらに、対照区において林冠葉のP濃度が低い種ほど、材外側P濃度も低く、P施肥によって材外側P濃度は急激に上昇した。このように、極相種のような葉P濃度の低い(葉におけるP利用効率が高い)種ほど、P欠乏下において材外側P濃度を低く維持し、高いP転流効率により効率的な材P貯留戦略を取っていると考えられた。