| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-263  (Poster presentation)

暖温帯コナラ二次林におけるナラ枯れに伴うリター動態の解明【A】【O】
Leaf litter dynamics with Japanese Oak Wilt in a warm-temperate secondary forest【A】【O】

*勝島可奈子, 関川清広, 友常満利(玉川大・院・農)
*Kanako KATSUSHIMA, Seikoh SEKIKAWA, Mitsutoshi TOMOTSUNE(Tamagawa Univ.)

落葉などのリターフォールは,森林土壌を介する栄養循環の重要な経路のひとつであり,リターは分解および無機化を通して,植物体の栄養源として機能する.近年関東各地で頻発している「ナラ枯れ」による被害が著しい樹体(ナラ枯れ木)は夏期に葉が萎凋枯死し,その葉は樹上にしばらくとどまり,徐々に落下する.このため,ナラ枯れは森林生態系において葉リターの落下時期(季節性)や量,その後の分解速度等,葉リター動態による栄養循環を大きく変化させる可能性がある.本研究では,ナラ枯れ被害程度の異なるコナラ二次林(2林分)において,ナラ枯れが葉リターフォール(リタートラップ法)と葉リター分解(リターバッグ法)に与える影響を明らかにし,リター動態への影響を議論した.健全木の落葉は主に11~12月であるのに対し(秋期落葉),ナラ枯れ木上のナラ枯れ葉は主に7~9月の夏期に落葉することが明らかとなった.また,夏期に萎凋し落下したナラ枯れ葉は,秋期落葉より高い窒素濃度であった.一方,ナラ枯れ葉は,秋期落葉より分解が速かった.これは,夏期ナラ枯れ葉の落下時の高い温度,および高い窒素濃度に起因すると考えられた.発生から終息までの5年間の葉リター動態を推定すると,5割枯死林分ではリターフォール量が減少し,2割枯死林分では変化は検出されず,被害の大きさによるリターフォール量の減少が確認された.リター動態にナラ枯れが与える影響としては,リター分解よりも,リターフォール量への影響が大きかった.これらの結果は,ナラ枯れが森林生態系の葉リター動態を変化させ,土壌の栄養塩状態を改善し,被害終息後の森林動態に影響することを示唆する.本調査地全域では,ナラ枯れ被害は落葉広葉樹林面積の1割にとどまったが,著しい被害を受けた林分においては,ナラ枯れ葉はリター動態により多大な影響を与える可能性があるだろう.


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