| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-266 (Poster presentation)
一次遷移の初期段階における土壌は有機物に乏しく、先駆植物による土壌への有機物供給は極めて重要である。富士山の火山荒原では、植物が定着していない裸地と、先駆植物であるイタドリの島状群落とでは、土壌炭素量に大きな差があることが知られている。しかし、イタドリによる有機物供給の定量的な評価は行われていない。そこで本研究は、イタドリの地上部リターフォール、枯死根の供給(地下部リターフォール)、根滲出物の供給の3つの経路による炭素供給を定量化し、イタドリが一次遷移初期の土壌における有機物蓄積に果たす役割を明らかにすることを目的とした。
静岡県御殿場市に位置する富士山火山荒原の標高1,600 m 付近を調査地とし、2023年5月2日から11月8日の間に5回の現地調査を行なった。地上部リターフォールは、一定面積の地表に新たに落ちたリターを回収・定量した。地下部リターフォールは、シーケンシャルコアサンプリング法により推定した細根生産量および細根ターンオーバーから、細根ネクロマス供給量を推定した。根滲出物は、露出させた細根をガラスフィルターで挟むことで根滲出液を回収し、そこに含まれる炭素量を定量することで推定した。最終的に、各経路の値を合計し、調査期間中のイタドリからの炭素供給量を算出した。
期間中の地上部および地下部リターフォール、そして根滲出物による炭素供給量は、それぞれ143、109、989 gC m-2となり、合計1,240 gC m-2となった。この値は裸地およびイタドリ群落直下における土壌炭素量がそれぞれ142、1,110 gC m-2であることを踏まえると、非常に大きな値であった。また、根滲出物による炭素供給が重要な経路であることが示唆された。ただしこの値についてはスケールアップ時に過大評価となった可能性があり、今後は根滲出速度の日変化を考慮して補正していく必要がある。