| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-269 (Poster presentation)
2011年3月に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故によって,放射性セシウムを代表とする多量の放射性核種が周辺地域に飛散した.飛散後に陸域へ降下した放射性セシウムは,河川生態系においても食物網を介して高次生物へと移行することが確認されている.一般的に野生動物の放射性セシウム濃度は事故後の時間経過とともに減少する傾向があるものの,河川生態系内の節足動物相における濃度減少の詳細な傾向や餌資源の摂取による体内への蓄積メカニズムについては十分に理解されていない.特に放射線量が比較的高く住民の居住が制限されている「帰還困難区域」においては現地の生物相に対するモニタリング調査が不足しており,放射線被曝影響や生態系機能保全の観点から,食物網を介した放射性セシウムの循環,移行過程の監視を行うことが重要な課題となっている.本研究では,水産資源としても重要な種である大型甲殻類モクズガニ (Eriocheir japonica) を対象として,体内への放射性セシウム移行量に対する,個体の餌資源や生息地の放射性セシウム蓄積量の影響を評価することを目的とした.2020年から2023年にかけて,福島県の帰還困難区域内を流れる3つの河川のそれぞれ3地点においてモクズガニを採取した.採取したモクズガニ体内の放射性セシウム濃度を測定するとともに,餌資源解析のために筋肉部の炭素・窒素安定同位体比分析を行なった.モクズガニ体内の放射性セシウム濃度は採取された地点によって大きく異なり,平均値は日本国内での一般食品の基準値である100 Bq/kgの10倍のオーダーであった.栄養段階の指標である窒素安定同位体比と体サイズとの間に有意な関係は認められず,モクズガニ個体が体内に蓄積する放射性セシウム量は餌資源の摂取によって生息地の放射性セシウム蓄積量を強く反映していることが示唆された.