| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-272 (Poster presentation)
林床に生育するツツジ科イチヤクソウは、"葉"と"菌根"の2様式で炭素を獲得する部分的菌従属栄養植物である。本種の炭素獲得能は生息環境に対し可塑的な応答を示し、低い光強度下でより菌根菌依存性が高まる。本種の菌根には菌鞘がなく、表皮細胞内に菌根菌の菌糸コイルが形成されるアーブトイド菌根で、その発達レベルは視覚的に区別される。菌根菌群集ではベニタケ科菌類が寡占し、根圏の細菌群集はバルク土壌のものと有意に異なる ため、イチヤクソウは種特異的な根圏微生物群集と相互作用することで炭素を含む養分の獲得を行う可能性がある。しかし、根圏微生物群集の成立や維持に影響を及ぼす根滲出物に関する情報は全く調べられてない。そこで本研究は、イチヤクソウの菌根菌の定着と光環境が根滲出物特性に及ぼす影響を解明するため、異なる菌根発達段階と光強度における根滲出物の速度と炭素供給源を調べた。三重県津市のコナラ林内に点在する7箇所で生育するイチヤクソウ個体群に対し一部を遮光する実験を4月から4か月間行った。8月に個体群の中から各処理(陽/陰)で1個体ずつを用いて根滲出物を野外測定した。根滲出物は炭素安定同位体比(δ13C)分析を行い、炭素量から根滲出物速度を算出し、δ13C値から炭素供給源を推定した。その結果、根滲出物速度は菌根発達段階と遮光処理による有意差はなく、個体間で0.9-21.8 mg C/g/hと大きくばらつく傾向にあった。イチヤクソウの葉と根、根滲出物のδ13C値は、独立栄養性と菌従属栄養性の参照植物の中庸に位置した。これらから、イチヤクソウの根滲出物は菌根発達段階や植物の光利用可能性に影響を受けることなく(恒常的に)根圏へ放出され、その構成炭素は光合成と菌根菌の双方に由来すると考えられた。