| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-276 (Poster presentation)
土壌微生物群集は森林生態系の物質循環に大きな役割を果たしている。近年におけるシカの個体数増加は林床植生の過採食や踏圧による土壌流出によって森林生態系へ大きな影響を与えており、土壌微生物群集に対しても種多様性の低下や機能群の変化が報告されている。一方、シカは死後に死骸として土壌中に易分解性の有機物を供給して土壌微生物群集の分解機能を向上させることから、森林土壌の物質循環を促進させる可能性もある。このように、シカは生前と死後に異なるプロセスで土壌微生物群集に影響を与えていることが推測されるため、シカが土壌微生物群集を介して有機物分解機能に与える影響を評価するためには生前と死後の両方の影響を分けて評価する必要がある。本研究では、シカの採食と死骸が土壌微生物群集を介して土壌の炭素基質分解機能に与える影響を、シカ防除柵内での野外操作実験を用いて評価した。
実験は北海道胆振地方の北海道大学苫小牧研究林で2023年7月に行った。苫小牧研究林にはシカを導入して採食をさせたシカ導入区(16.5ha)と2009年からシカを排除したシカ排除区(1.5ha)がある大規模な防鹿柵があり、本実験はシカ導入区とシカ排除区にシカの頭部を設置した死骸設置プロットと死骸なしプロットを設定した。死骸設置から20日後、表層10㎝の土壌を採集し、31種の異なる炭素基質の分解機能を測れるエコプレートを用いて炭素基質分解機能の多機能性と機能組成を測定した。多機能性は活性のある機能数の違い、機能組成は活性のある機能構成の違いを評価した。
多機能性はシカ導入区とシカ排除区の間に差は見られず、シカ採食処理の影響は見られなかった。一方、死骸処理によって多機能性が上昇した。また、採食処理と死骸処理の交互作用は検出されなかった。機能組成において、交互作用は有意ではなかったが、シカ排除区でみられた死骸による機能組成の分散の違いが、シカ導入区では見られなくなった。