| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-277 (Poster presentation)
近代化された水田は、湿地生物の多様性損失をもたらす駆動因と認識され、生物多様性に配慮した保全型水田が普及しつつある。しかし、生物多様性保全の効果は、十分に検証されていない。本研究では、谷津田の伝統農法である冬季湛水や水田内水路(ひよせ)、および、ため池灌漑による生息地のつながりが水田に生息する湿地動物群集の多様性に及ぼす効果を評価するために慣行水田と冬季湛水田の比較調査を実施した。冬季湛水は、表在性水生動物の多様性に正の効果を及ぼす反面、表在性半水生動物や内在性動物の多様性に顕著な効果を示さなかった。他方、外来種のアメリカザリガニは、ため池灌漑水田に多く出現し、水田内水路で増加した。中干前になると、その個体群密度は慣行水田で減少したが、冬季湛水田で安定的に維持された。水草を切除し、水底を物理的に撹拌するアメリカザリガニの個体群密度は、水草を利用する半水生動物や泥中の内在性動物の多様性に強い負の影響を及ぼした。谷津田の伝統的水田は、湿地動物の多様性を保全する効果がある反面、アメリカザリガニの温床となることによって、湿地動物の多様性に間接的な負の影響を及ぼすことが明らかとなった。