| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-278  (Poster presentation)

オオムカデ属における色彩多様性と日本におけるその分布【A】【O】
Color Diversity of Giant Centipedes and Its Distribution Model in Japan【A】【O】

*Ryosuke UNO(Kyoto Univ.)

 古くから多くの人々を惹きつけてきた動物の色彩研究は,近年,神経学や認知学との結びつけを見せ,ますます隆盛を誇っている。例えば,通常単型化が予想される動物の体色の多型現象には,捕食者の認知や心理を内包した理論的・実証的な研究が増加している。
 その一方で,オオムカデ属の体色は数多くの色彩変異で知られるにも関わらず,その多様性に対する学術的な報告はほとんど存在せず,近年の色彩研究から大きく取り残されている。
 本研究では,このギャップを埋めることを目的に,8000枚を超える日本国内のムカデの写真を市民科学から収集し,1枚ずつ精査を行った。
 その結果,国産オオムカデ属2種(トビズムカデ・アオズムカデ)には,歩肢の色に顕著な3つの変異(赤・橙・黄)が生じていることが明らかとなった。また,これらの色彩の地理的な分布は,トビズムカデでは日本全国に広い重複が見られたのに対し,アオズムカデでは関東から東海地方に赤肢が偏っていることが明らかとなり,両者の色彩多様性は異なる駆動要因で保たれている可能性が示唆された。
 この可能性に対するアプローチとして,写真に付随した位置情報を在データとし,気候などの環境データを説明変数としたMaxEnt法を用いて各種の肢色について種分布モデルを構築した。各モデルの予測値からそれぞれのメッシュを在と不在に分類した。各肢色において在と分類されたメッシュ間で環境的な違いが生じるかを明らかにするために,種ごとに黄肢の在地点を0,赤肢の在地点を1としたロジスティック回帰を行った。その結果,トビズムカデでは,気温が高く平坦な都市部で赤肢の割合が減少するのに対し,アオズムカデでは気温が高く平坦な都市部で赤肢の割合が増加するという正反対の色彩パターンを示した。このことから,両種の色彩多様性は異なる駆動要因によって維持されていることが強調された。


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