| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-280 (Poster presentation)
植物は分泌物質や免疫反応を通じて葉面、葉内に生息する葉圏微生物と相互作用しており、そのプロセスを解明することは植物の生理・生態を理解する上で必要不可欠である。植物‐微生物間相互作用に影響する因子として、植物が放出するBVOCs(生物起源揮発性有機化合物)がある。先行研究においては、スギが蓄積・放出するBVOCsに集団間の変異が存在すること、それらがスギの産地における真菌群集組成と関係していることが示唆されている。この結果は植物の種内変異に応じて植物‐微生物間相互作用が変化する可能性を提示するが、この研究で用いられた真菌群集組成データは文献情報に基づいたものであり、実際の相互作用を反映しているかは不明であった。
そこで本研究では、スギが放出するBVOCsと葉圏微生物の種内変異を調査し、その相互作用の変化を解明することを目的とする。日本における森林面積が広いスギのBVOCs放出メカニズムに関する知見は、森林樹木による寄与の大きいBVOCsの大気化学的気候プロセスへの影響を理解するためにも重要である。
調査では筑波大学山岳科学センター筑波実験林および東北大学川渡フィールドセンターの共通圃場で栽培されている、日本各地のスギ自然集団由来の挿し木クローンを対象に、アンプリコンシーケンシング解析を行った。その結果、葉圏微生物群集組成には明瞭な圃場間差が見られ、また集団間での差も検出された。さらに、同一栽培個体が放出するBVOCsと葉圏微生物群集組成の相関関係を解析した結果、スギが放出する特定のBVOCsと葉圏微生物群集との間に関係があることが示唆された。
葉圏微生物群集やBVOCsの種内変異に着目した研究は少なかったが、本研究から、スギの葉圏微生物群集や放出するBVOCsにおける種内変異の存在と、その間の関係が示唆された。今後の研究では、こうした種内変異とその関係が生じる原因や、それらが植物の生理・生態や大気に及ぼす影響を検証する必要がある。