| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-285  (Poster presentation)

寄生関係の多様性が生態系間エネルギー流の季節動態にもたらす影響【A】【O】
Diversity of host-parasite interaction mediate seasonal ecosystem linkages【A】【O】

*Hinako ASAKURA(kyoto Univ.), Ryo FUTAMURA(hokkaido Univ.), Sennri MORIYAMA(hokkaido Univ.), Osamu KISHIDA(hokkaido Univ.), Takuya SATO(kyoto Univ.)

寄生者による宿主操作は、しばしば捕食-被食関係を促進し、食物網内や食物網間の大きなエネルギー流を駆動する。こうした寄生者介在型のエネルギー流は、複数の寄生者種と宿主種によって維持されることが明らかになりつつあるが、多様な宿主―寄生者関係が、エネルギー流の量的・ 時間的な性質をどのように規定するのかは未解明である。寄生者ハリガネムシは、終宿主の陸生昆虫を操作し、河川に入水させ、サケ科魚類に大きな餌資源をもたらすことで、森林から河川へのエネルギー流を駆動する。 北海道中南部では、ハリガネムシが地表徘徊性甲虫と直翅類の両方に感染しているが、こうした多様な宿主―寄生者関係がサケ科魚類への餌資源補償の季節性をどのように形作るかは明らかでない。 本研究では、寄生者のDNA分析と宿主の形態分類により、北海道中南部の陸生昆虫―ハリガネムシ関係における宿主特異性の解明を試みた。また、そのような多様な宿主―寄生者関係の存在が、サケ科魚類の摂餌量に与える影響を解明するため、季節ごとに三河川で胃内容調査を実施した 。結果、北海道中南部では、Gordionus属とGordius属のハリガネムシがそれぞれ地表徘徊性甲虫と直翅類に感染し、Gordionus属は地表徘徊性甲虫を春に、Gordius属は直翅類を秋に操作していた。各季節で、サケ科魚類の総摂餌に占める宿主昆虫の割合は5-17、9-23%と集団レベルでは大きくなかったものの、宿主を摂餌していた個体は、宿主を摂餌していなかった個体に比べて、総摂餌量が春には1.4-1.7倍、秋には1.5-3.0倍高かった。つまり、属の異なる2つの寄生者種群が、それぞれ目の異なる宿主種群に感染することで、寄生者介在型の餌資源補償が春と秋に2度駆動されていた。宿主操作を行う寄生者は普遍的に存在し、それぞれの系が多様な宿主と多様な寄生者から成り立っている。本研究で示唆されたような多様な宿主―寄生者関係によるエネルギー流の季節性への影響は様々な生態系で見られるのかもしれない。


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