| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-286 (Poster presentation)
サンゴ礁で最も繁栄しているスズメダイ類のうち、なわばりをもつ藻食性スズメダイは、なわばりを防衛、管理し、餌となる藻類が繁茂した藻園をつくる。そのため、なわばり内はサンゴ礁の底質において微生息場所の異質性が高まり、サンゴ礁を構成する造礁サンゴをはじめとした底生生物群集に大きな影響を与える。そこで、藻食性スズメダイ類の藻園内においてサンゴ群集が受ける影響を長期的に観察し明らかにすることを目的として本研究を行った。
調査は2019年から2023年にかけて沖縄県本島中部に位置する国頭郡本部町瀬底島東岸を調査地として行った。調査地に生息する藻食性スズメダイであるクロソラスズメダイStegastes nigricansのなわばり内と、なわばり外に設置した1㎡のコドラート内において4年間に亘るサンゴ群集構造の変遷を明らかにした。調査期間中は同一のなわばり、なわばり外コドラートについて調査を行い、サンゴを群体レベルで追跡することでなわばり内外におけるサンゴ群体の定着、消失、成長を明らかにした。
その結果、なわばり外に設置したコドラートにおいてはこのサンゴ礁で優占しているミドリイシ属、コモンサンゴ属をはじめとした多くのサンゴ属でサンゴ被度の増加がみられたが、なわばり内ではこれらのサンゴ属でサンゴ被度の減少が確認された。また、サンゴの群体密度においてなわばり外では4年間で大きな変化は見られなかったが、なわばり内においては多くのサンゴ属で群体密度の減少が確認された。一方で、なわばり内でのみ被度、群体密度の高いサンゴ属があることも分かった。
これらにより、クロソラスズメダイのなわばり内では、なわばり外で優占するミドリイシ属、コモンサンゴ属を含む多くのサンゴ属が成長、生存において負の影響を受け、サンゴ被度が低く抑えられる可能性がある。一方でなわばりがなわばり外ではあまり生育できないハナガタサンゴ属の生育場所として機能している可能性も示唆された。