| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-288  (Poster presentation)

海洋島における海鳥巣の生態的機能~巣内共生系からの検討~【A】【O】
The ecological function of seabirds' nests examining from the perspective of the symbiotic system【A】【O】

*水越かのん(筑波大学), 川上和人(森林総合研究所), 上條隆志(筑波大学)
*Kanon MIZUKOSHI(Tsukuba Univ.), Kazuto KAWAKAMI(FFPRI), Takashi KAMIJO(Tsukuba Univ.)

鳥類の巣が節足動物の越冬や繁殖に利用されるケースは陸鳥を中心にこれまでに数例報告されている(Nordberg 1936; 那須ら2007など)。鳥類は巣材として枯死植物やコケ類、木の枝などを一か所に集積し、また巣内には卵殻や食べ残し、フンが堆積する。このような環境は分解者をはじめとする節足動物の潜在的なハビタットとして機能する可能性がある。  
こうした鳥類の巣における巣内共生系はフクロウやカラ類などの陸鳥類や、カワウ、アカショウビンなどの一部の水鳥類において研究例があるが、海鳥巣内の共生系については、那須ら(2014)によるオナガミズナギドリ・アナドリの巣内に共生する鱗翅目幼虫の報告が一例あるのみで、海鳥の巣内共生系を網羅的に明らかにした報告は未だない。海鳥は洋上での採餌と陸上での排泄により海と陸地の栄養循環を担うほか、巣穴の掘削による陸上植生の攪乱など営巣を通じて繁殖地の陸上生態系に大きな影響をもたらす。特に成立以来陸地との接続がない海洋島において、海鳥は生態系エンジニアとして多くの生物に影響を与えると考えられているが、海鳥と海洋島における他生物群集との相互作用には不明な点が多い。そこで発表者らは海鳥の営巣が海洋島の無脊椎動物群集に与える影響に着目し、海鳥巣内の無脊椎動物相を明らかにした。
発表者らは小笠原諸島の無人島(聟島鳥島・媒島・南島・北硫黄島・南硫黄島・西之島)で2011年から2019年の間に採集した海鳥(カツオドリ・オナガミズナギドリ・クロアシアホウドリ)の巣材90個を分析し、海鳥の巣内から動物性遺骸の分解者として知られるヒロズコガ類の幼虫や、ワラジムシ目をはじめとする19種の無脊椎動物を確認した。ここから海鳥が巣作りを通じて他の生物のハビタットを創出する機能を持つ可能性を示し、海鳥の生態系エンジニアとしての新たな役割を検討する。


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