| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-289 (Poster presentation)
ウオノエ科等脚類は、宿主特異性の高い魚類の絶対寄生者であり、宿主魚の口腔、鰓蓋腔、体表、腹腔に寄生し、血液や体液を吸汁したり、組織を摂食したりする。遊泳能力がある幼生の時期に分散し、宿主魚に寄生すると変態して成体になり、移動能力が失われ、一生を同一宿主個体上で過ごす。通常、雌雄1ペアが1個体の宿主魚に寄生する。生殖戦略は雄性先熟型の雌雄同体で、寄生戦略に適応した繁殖を行う。
宿主の死はウオノエの死を引き起こすため、ウオノエは宿主の健康状態や生残には影響を及ぼさないような選択を受けるが、宿主の繁殖を抑制し適応度を減少させる場合がある。例えば、ウオノエと同じ寄生性甲殻類のフクロムシ類やヤドリムシ類などは宿主を不妊化させ、そのエネルギーを自身の繁殖などに利用する。さらに、宿主魚の口腔内空間の大部分をウオノエが占有することで、物理的な捕食の阻害や、食性の変化を引き起こすことも予想される。
本研究では、高知県沿岸域のマルアジとその口腔に寄生するナミオウオノエを採集し、宿主魚の標準体長、尾叉長、生殖腺重量、肝臓重量、肥満度、胃内容物重量を測定し、これらの生理学的なパラメータに対するウオノエの寄生の影響を明らかにすることを目的とした。口腔内へのウオノエの寄生による摂餌への影響について調べるため、宿主魚の胃内の餌魚の鱗の有無の比較も行った。
マルアジの繁殖期にあたる7月に、1齢および2齢の雌雄の宿主魚において、ナミオウオノエに寄生された場合、湿重量と肥満度が顕著に低下した。繁殖期が終わった9月には、寄生による影響は検出されなかった。胃内容物の重量や胃内の餌魚の鱗の有無は、季節に関係なく、ウオノエの寄生の影響を受けなかった。
ナミオウオノエがマルアジの口腔内に寄生することは宿主魚の捕食を阻害しないが、特に繁殖期の個体の湿重量と肥満度を減少させ、繁殖成功を低下させる可能性があることが示唆された。