| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨 ESJ71 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P1-296 (Poster presentation)
アブラムシがアリに甘露を提供し、その見返りとしてアリがアブラムシを外敵から守るという相利共生はよく知られている。しかし、アリはアブラムシを捕食することもしばしばある。アブラムシはアリに世話をしてもらう見返りとして多くの甘露を分泌する必要があるが、そのためにはより多くの師管液を吸汁する必要がある。先行研究では、口吻が長いほど師管液吸汁量と甘露排泄量が増加することが知られていることから、口吻が長いアブラムシほどアリにとって有用な共生者となると考えられる。
クチナガオオアブラムシ属は10mm以上に及ぶ長いストロー状の口器(口吻)をもち、野外では必ずアリに随伴されている(アリ絶対共生)。本研究では、「クチナガオオアブラムシ属の長い口吻は、アリによる捕食を回避するための適応進化の結果である」という仮説を検証する。
長野県松本市の4地点における7つのクヌギクチナガオオアブラムシのコロニーについて、アリによって捕食されたアブラムシ個体を回収し、捕食されずに生存していた個体と口吻の長さを比較した。その結果、捕食されたアブラムシ個体は生存していた個体よりも口吻が短かった。また、体サイズに対する口吻長の比を表す相対口吻長(口吻長/頭幅:体サイズの指標)も、捕食されたアブラムシ個体は生存していた個体よりも短いことが判明した。すなわち、甘露源としての価値が高く(口吻長が長い)、タンパク源に対する糖源の割合が高い(相対口吻長が長い)個体が生き残りやすかった。さらに、アリによるアブラムシの捕食頻度は、寄主木であるクヌギの1本1本で大きく異なっており、アブラムシの平均口吻長が短い寄主木ほど、アリによるアブラムシの捕食頻度が高いことがわかった。また、成虫と幼虫を分けた場合でも上記と同様の傾向が見られた。以上の結果から、アリによる選択的捕食によって、アブラムシの口吻が長大化してきたことが示唆された。