| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第71回全国大会 (2024年3月、横浜) 講演要旨
ESJ71 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-297  (Poster presentation)

ヤマカガシ属によるホタル毒利用の進化的背景の探究【A】【O】
Exploring the Evolutionary Background of the Use of  Lampyrin Fireflies Toxin by the Genus Rhabdophis【A】【O】

*森川晏吾(京都大学)
*Ango MORIKAW(Kyoto University)

毒とは多くの生物が捕食や防御のために利用する化学物質であり、一部の生物では毒を自身で合成するのではなく、餌や共生生物などの他個体から得て再利用することが知られている。このような毒の流用において、従来、毒源の生物と利用する生物は一対一の特異性が高い関係にあると考えられていた。しかし、近年の研究で毒の流用を行う生物は進化の中で毒源となる生物をしばしば変えていることが明らかになりつつある。本研究ではこのような毒源生物の変化がどのようにして起こるのかを解明するため、毒源生物の変化に際して起こる様々な形質の共適応の一端を明らかにすることを目指した。アジアに広く分布しているヘビ類であるヤマカガシ属は、脊椎動物では珍しく毒の流用を行い、主にヒキガエルを毒源として利用し、捕食したヒキガエルの持つ毒であるブファジェノライド(以下BD)を頸部にある頸腺という器官に貯蔵して捕食者から身を守る。しかし、中国に生息する派生的なグループのミゾクビヤマカガシ種群では、毒源をヒキガエルからマドボタル亜科のホタルへ変化させている。ヒキガエルとマドボタルはBDに分類される毒を共に保有しているが、その化学修飾や構造に違いがある。そこで、ヒキガエル捕食という祖先形質を維持するヤマカガシに、ホタルが持つBDやBDと化学構造的に類似した強心性ステロイド毒であるカルデノライドを与えることで、ヤマカガシが利用することができる化合物の柔軟性を検討した。その結果、ヒキガエルBDと比較してホタルBDやカルデノライドは、消化管内での吸収、化学修飾および頸腺の蓄積において効率が著しく低下していた。これらのことから、ヤマカガシが効率よく利用できるBDの化学構造には制限があり、特異的な毒源生物への適応がみられることが明らかになった。したがって、毒源生物の変化が起こるとそれに伴って毒成分の吸収や化学修飾、蓄積などの機能に共適応が起こることが示唆される。


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